2019年7月25日

長崎原爆投下74周年によせて


 長崎原爆投下73周年を記念するメッセージでは、2018年6月のドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の指導者キム・ジョンウン(金正恩)氏との首脳会談により、北朝鮮による、あるいは北朝鮮に対する核戦争の可能性が数十年にわたって懸念されていた朝鮮半島において非核化が進むことになるだろうという、明るい見通しを述べました。しかし残念ながら、首脳会談後は目に見える進展はなく、再び核軍備競争が行われている状況です。

 米国防情報局長官であるロバート・P・アシュリー・ジュニア中将が、2019年5月29日にハドソン研究所で語ったところによると、ロシアと中国はそれぞれ、核兵器の近代化と能力増強を行っており、今後10年で両国の核保有数は大幅に増加するだろうと言うことです。ロシアでは、戦略的および非戦略的な核兵器の包括的な増強が行われていることは明白です。そしてそれを可能にしているのは、核兵器の開発および生産インフラに対する優先的かつ継続的な投資なのです。またロシアは、新たな核運搬システム開発を進めており、これは米国にとって戦略的な課題をもたらすとともに、現行の核軍縮協定の下では管理することが難しいものです。特に、ロシアの核兵器が定量的にも定性的にも向上しているという主張は、米国とその同盟国の安全保障に対して影響を及ぼすものです。なぜなら、ロシアが多種多様な核兵器を多数保有することによって、核兵器によらない衝突を強制的に終らせるためには核兵器の強制使用も辞さないという政策が促進され、それによって、紛争の両当事者が核兵器を使用する誤算が生じる可能性が高まるからです。中国に関して言えば、中国の歴史上で最も急速に核兵器の拡張と多様化とが進められており、今後10年間で核保有数が少なくとも2倍になると思われます。中国全体の核兵器保有数はロシアよりもはるかに小さいと見られているものの、中国に何百もある戦術的核兵器は、相互確証破壊(MAD)に対する核抑止の理論を支える戦略的武器とは対照的に、戦場で使用することを目的として設計されています。

 インドとパキスタンは、最近では今年の2月にもカシミールで交戦していますが、どちらも核保有国です。そのほかにも、それぞれの兵器庫に核兵器を保有していることが知られている国があります。74年前、広島と長崎に対して核による攻撃が行われた後、そのような武器は二度と使われることはないと、誰が永遠に保証できるでしょうか。

 私たちは、戦争や、飢餓や、自然災害や、人為的災害などの危険に満ちた、非常に危うい状態にある世界で暮らし続けています。現代において、科学は、人工知能(AI)を人類に提供できるほどに進歩しています。しかしこのことは、マハトマ・ガンジーが言った「7つの社会的罪」を思い起こさせます。これは後に「世界にある7つの過ち」と呼ばれるようになりましたが、その中に「人間性なき科学」というものがあります。例えば、どうして科学者たちは、罪もない人々の生命をないがしろにして、核兵器を発明したのでしょうか? 科学者は、ほかの全ての人類と同じく、人間的なものと非人間的なものとの違いを示す、人間性と人道主義の持つ価値を常に守っていくべきなのです。

 長崎市に原爆が投下された日が巡ってくるたび、人間が、仲間のほかの人間に対して野蛮で残酷なふるまいをしたという悲劇を思い出します。こうした理由からSATA Foundationのロゴには、浦上天主堂のマドンナ像の頭部の写真が使われています。このマドンナ像は、1945年8月9日に天主堂から約500メートル離れた場所で原子爆弾が爆発した時に完全に破壊されたものです。私が繰り返し述べているとおり、長崎のマドンナ像は、人道主義を、核兵器のない平和な世界を示す強力なシンボルです。しかしそのためには、科学や技術を適切に用い、限られた資源を、人類の向上のために配分しなければなりません。その時々に国家の指導者を選ぶのは皆さんのような普通の人たちです。皆さんは、私たちの世界に意義のある変化をもたらすために手を携えていかなければなりません。皆さんこそが、世界遺産、将来の世代のための私たちの遺産の本当の価値を理解すべきなのです。毎年ユネスコは、文化的重要性という観点から世界の文化遺産を選定していますが、長崎のマドンナ像は、1996年からユネスコ世界遺産に登録された広島平和記念館(原爆ドーム)や、ユネスコが認定する他の世界的な文化遺産のように、同種の国際的な認定に値すると、2万人を超える一般の人々が賛同しています。

 SATA Foundationは、引き続き人道と平和のミッションを追求していきます。広島と長崎に原爆が投下された日を記念して、私たちがフランスのシャイイ=シュル=アルマンソンで開催する平和祈念自転車レースは、ますます大きな大会となっています。今年のレース(www.courirpourlapaix.com)は2019年7月27日土曜日に開催され、過去14年間と同様、約400人から500人のサイクリストが参加する予定です。平和祈念自転車レースの収益は、SATA Foundationのミッションの支援に宛てられます。

 SATA Foundationへの寛大なご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。



SATA Foundation
理事長 佐多 保彦


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