2021年7月30日

長崎原爆投下76周年によせて

 世界中がCOVID-19パンデミック(世界的大流行)による深刻な被害を受けてから1年以上が経ちました。WHO(世界保健機関)の調べによると、2021年7月中旬の時点で、COVID-19の感染が確認された患者数は1億8600万人以上、このうち400万人以上が亡くなっています。発展途上国と比べて最先端のワクチン接種を受けることができる先進国までもが、このパンデミックの影響を大いに受けています。残念なことに、依然として国際社会は、人々の必要性に基づいてCOVID-19の医薬品やワクチンを行き渡らせることができずにいますが、このことは市場原理だけに委ねられるべきではありません。この事態から、科学が進歩した現代であっても、利用可能な資源が人々の健康増進のために十分に配分されていないことを改めて確認できます。

  私は昨年のメッセージで、COVID-19は世界的な軍事力や経済的優位性が必ずしも国家の安定や幸福を保証するとは限らないことを証明したと述べ、各国政府は高価な軍事物資で自国を武装することに過剰に注力するのではなく、国民の命を守り、生活水準を向上させるために科学や利用できる資源を活かすことへ注意を向けるべきだと申し上げました。これはいつの時代も変わらないことです。ただ、今年は素晴らしいニュースが1つあります。2017年に採択されたTPNW(核兵器禁止条約)が、2021年1月22日付で発効しました。TPNWは、核兵器を包括的に禁止する初めての世界的な多国間条約であり、核兵器の使用や実験による人道的影響に対処するための条項が含まれた初めての条約です。しかし、TPNWを批准した国と地域は55しかなく、その中には核兵器を保有している国や保有を目指している国は含まれていません。今から76年前の1945年8月、世界が広島と長崎への原爆投下を目撃し、何十万人もの無辜の市民が一瞬にして、あるいはその後の放射線の影響によって亡くなったにもかかわらず、日本はTPNWを批准していません。

  DOD(米国国防総省)は、2020年4月17日付で公開した「Joint Nuclear Operations(共同核作戦)」と題する文書の中で、地域規模あるいは地球規模の紛争において核兵器が使用される可能性が高まっているという恐ろしい予測をしており、2010年以降、国家安全保障戦略における核兵器の役割を縮小し、保有する核兵器の数を減らした核兵器保有国は無いと述べています。またDODは、米国は核兵器の数と重要性を減らし続けてきたものの、「敵対勢力の段階的かつ限定的な核の拡大時の抑止力の回復」において重要な役割を果たすために、「柔軟かつ限定的な核対応の選択肢」を追求する必要があることを主張しています。バイデン政権は、2021年3月に発表した「国家安全保障戦略暫定指針」の中で、「核兵器によってもたらされる生存への脅威に対処し」、「費用のかかる軍拡競争を回避し」、軍備管理のリーダーとしての信頼を再確立するという方針について説明しています。その具体的な方法とは、現在ある軍備管理協定を延長して新たな協定を追求するとともに、国家安全保障戦略における核兵器の役割を縮小するための措置を講じる一方で、戦略的抑止力が安全、確実、効果的であることを保証し、同盟国に対する核拡大抑止へのコミットメントが強固で信頼できるものであり続けることです。正直なところ、喜ばしいと言えることは何もありません。

  1945年8月9日に長崎の上空約500メートルで原子爆弾が爆発したときに完全に破壊された浦上天主堂のマリア像の頭をロゴとしていることからもわかるように、Sata Foundationは、戦争に加わっていない人々に対しても無差別に影響を与える大量破壊兵器に強く反対しています。このマリア像は、科学技術を適切に利用し、希少な資源を人類の向上のために割り当てることで、平和に暮らす世界になることを意味する人道主義の力強いシンボルです。実際に、教皇フランシスコは、2019年11月24日に長崎を訪問した際、核兵器がもたらす「言語に絶する恐怖」を明確に非難し、世界の指導者らに対して核兵器の蓄積を終わらせるよう促しました。なぜならば、何百万人という子どもたちや家族が非情な状況で暮らす一方、これまで以上に破壊的な兵器の製造、改良、整備、販売によって資金が浪費され、富が創出されているなかで、各国に誤った安心感を与えるものだからです。

  ある国が核兵器を使って敵対国を征服したと仮定してみましょう。勝利した国は、敗戦国の人々のCOVID-19などの病気を治療し、食料や住居を提供するとともに、気候変動の悲惨な影響を含むあらゆる危険から人々を守るための準備と意思、そして十分な資源を持っていると思いますか。それは絶対にあり得ません。

  したがって、私たちが社会や国際社会で共に平和に暮らすためには、お互いを思いやり、理解する必要があります。Sata Foundationは、限られた資源の中でできる限りの人道的そして平和的使命を追求し続けることをここに再確認します。

  2021年7月31日、Sata Foundationは、COVID-19の影響を受けた昨年を除いて2005年から毎年開催している「平和祈念自転車レース」をフランス・ブルゴーニュ地方のシャイイで開催し、数百名が参加します。このレースは、広島と長崎の原爆犠牲者に対する敬意を示すだけでなく、Sata Foundationの使命を遂行するための資金を調達し、特に、2011年に東北地方を襲った津波の犠牲者のために1件の登録につき、2ユーロを寄付しています。(https://sportsnconnect.lequipe.fr/calendrier-evenements/view/109/cyclosportive-courir-pour-la-paix

  私たちの世界をより良い場所にするためにSata Foundationへのご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。



SATA Foundation
理事長 佐多 保彦


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